新卒社員の皆さんへ
~人生のキャリアとメディカル事業の価値~
キャリアの浮き沈み:失敗から学ぶ成長
社会人を長くやっていると、誰しも経験するのがキャリアの浮き沈みです。私自身も、仕事を通じて大きなアップダウンを経験しました。
私は新卒で三井不動産に入社して3年目に上司を批判し、左遷となりました。「今の仕事に満足しているか」「上司の指示に納得しているか」などといった人事部からのアンケートに対し、わざわざレポート用紙を買ってきて、批判的な内容を書き連ねたのです。会社は自分の正しさを理解してくれると考えましたが、その結果は閑職の人たちが毎日ただ世間話をして帰るような、仕事のない部署への異動でした。26歳にして私のキャリアは終わったと思いました。
私は自分の何が間違っていたのか自問しました。そして、「仕事がない」という状態を、むしろ「どんな仕事をしてもいいチャンス」ととらえ、収益を上げる仕事に挑戦しようと考えました。
都市再開発から東京ミッドタウンへ
当時はバブル崩壊で土地の活用に困っている自治体や企業がたくさんありました。そこで、都市再開発に関するコンサルティングビジネスを立ち上げました。価値が暴落した土地を活用する様々なアイデアを出し、都市再開発へと導いたのです。例えば、ラゾーナ川崎や、豊洲の街づくりなどは私が担当しました。やがて都市開発のトップコンサルタントとして、土地を抱えて困っている自治体や行政から相談を受けるようになり、収益の高いビジネスへと成長させました。
事業がいい方向に育ってくると、やはり社内で目立つ存在になってきます。より責任の大きなプロジェクトを任されることとなり、後に東京ミッドタウンとなる大規模複合施設の開発を担う部署へと異動することになりました。
東京ミッドタウンは、旧防衛庁の土地を買収して建設されたプロジェクトです。土地を買うためには、競争入札に参加する必要があり、多くの大企業と競合しました。土地が買えなければプロジェクトが終了する緊張感のなかで迎えた競争入札の6日前、アメリカのニューヨークで同時多発テロが発生しました。株価が暴落し、世界経済が混乱する中、私たちはあらためて競争入札に参加する決意をし、結果、土地の買収に成功しました。
医療事業への転換と再び訪れた挫折
東京ミッドタウン開発プロジェクトは、社内でも花形として注目され、私自身も再び評価されるようになりました。その後、東京ミッドタウン6Fに設立された東京ミッドタウンクリニックと事業連携するために独立し、アドバンスト・メディカル・ケアを設立しました。
しかし、ここで再び私のキャリアは急激な下降線をたどります。東京ミッドタウンクリニック設立からわずか2年間で約20億円もの赤字が積み上がったのです。同時期にリーマンショックも発生し、世界経済が混乱して株価の暴落も重なり、非常に苦しい経験をしました。
その後、東京ミッドタウンクリニックとハイメディックが連携し、ハイメディック・ミッドタウンコースをはじめとする新たな医療サービスが軌道に乗りました。また、同じ東京ミッドタウンクリニックの施設内で会員制検診と一般向けの健診・人間ドック・外来診療によるハイブリッド運営の改善を繰り返し、施設稼働率を向上させるなどの努力の結果、ようやく黒字化することができたのです。
このように、私の仕事人生は順風満帆ではなく、上がったり下がったりを繰り返してきました。ここで私が皆さんにお伝えしたいのは、決して私の能力が高いから、あるいは頭が良いから今、皆さんの前で話す立場になった、ということではないということです。失敗も含めて経験値を蓄積し、反省を生かしていくことで人は成長するということです。
日本の医療制度と企業の健康経営
現在、多くの企業では、65歳まで働くことができ、国も70歳まで働くことを推奨しています。皆さんが社会人として働く期間は、非常に長くなっています。その中で、キャリアの浮き沈みをどのように乗り越え、どのように継続していくかが重要になります。
少子高齢化が進む日本において、若い世代は社会的に希少価値があります。企業は、若手人材を大切にしようとしています。しかし、それに甘んじることなく、自分自身を高め、学び続ける力を身につけることが大切です。私のケースをお話ししたように、社会人生活においては、様々なことが起こります。良いこともあれば、悪いこともある。しかし、どのような状況でも、自分の力を信じ、成長を目指して、仕事をしていただきたいと願っています。
そのためには、皆さんが入社したリゾートトラストグループのメディカル事業についての本質を理解し、一人一人がどこに向かって仕事をしていくのかを認識することが大事です。
企業の健康を支え、「企業成長」に貢献するメディカル事業
現在の日本の医療は、公的保険制度によって支えられています。企業は社員へ定期的な健康診断を受けさせることが義務付けられており、会社に属していない方々も国民健康保険に加入することで、個人負担の医療費を軽減しながら質の高い医療サービスを受けることができます。その上で、検診の質が高く、MRIの数や病床数など、日本の医療設備は世界でもトップクラスです。こうした背景から、誰でも質の高い医療へのアクセスが容易で、国全体で病気の「早期発見・早期治療」が可能な体制になっています。
しかし、超高齢化社会が進むにつれて公的保険を支える財源は厳しくなっており、日本国全体でどこまで維持が可能か不透明です。一方で、企業にフォーカスすれば、働き方改革や健康経営、ダイバーシティ&インクルージョンなど、経営者と多様な従業員の健康を大切にするニーズはますます強まっています。経営者や従業員の健康を守ることで「企業の成長」に貢献することこそが、私たちメディカル事業全体のビジネスモデルの核となります。
まず、会員制医療について考えてみましょう。ハイメディックの主要顧客は中小企業の経営者の皆様です。中小企業のトップの健康が企業経営に与えるインパクトは非常に大きく、仮に社長が倒れれば、その会社自体が存続できなくなる可能性すらあります。あるいは、銀行から融資を受ける際にも経営者の健康状態が判断材料になることがあります。「社長が病気だからこの会社は危ない」と評価されてしまうことが現実にあるのです。このような背景から、多くの経営者が高度な医療を受ける価値を深く理解しています。そのため、かつては「早期発見・早期治療」を重視してきましたが、現在は経営者が病気であるという状況自体を防ぐため、「未病対策」へと私たちが貢献すべきフェーズが上がっています。
同様に、私たちは一般向けの健康診断や人間ドック、外来診療も積極的に行っています。企業活動を支えるためには従業員の健康が欠かせず、社員が元気で働ける環境を作ることが企業の成長につながります。進興会とミッドタウンクリニックのグループ医療施設全体では年間約61万人もの方々が健康診断・人間ドックを受診されており、日本有数の規模となっています。また、これだけ多くの方々に医療サービスを提供することで、高精度医療機器を効率よく活用できる仕組みができています。会員制検診と一般向け検診を同じ施設で行っている場合、利用する高精度医療機器を共通にすることで、1日の使用回数が増え、稼働率が上がります。会員制と一般向のハイブリッド運営により、コスト効率も最適化されているのです。
そして、会員制と一般向けで医療の裾野が広がることによって、私たちのメディカル事業は約1,000名もの優秀な医師と連携して仕事をしています。また、放射線画像の読影および診断を行う遠隔画像診断もiMedical、セントメディカル・アソシエイツの2社で行っており、業界第2位の規模を誇ります。この規模感こそが我々の強みとなり、強固な医療ネットワークや最新医療技術の導入、先進医療の研究と実践まで、私たちだから成し得る稀有な医療体制を構築しています。
先進医療への取り組み
がん治療ではCICSが進めている世界初の治療法「BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)」に長年投資しています。これまで痛々しく頭の皮を剥いで治療していた頭部の血管肉腫(血管の内側を覆う細胞ががん化した悪性腫瘍)などに対し、ホウ素を含む薬剤を腫瘍に集積させ、そのホウ素をターゲットに中性子線を照射することで、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、がん細胞を選択的に破壊する革新的な治療法です。
また、東京ミッドタウン先端医療研究所は、東京慈恵会医科大学による世界初の切除不能膵癌に対する免疫化学療法の共同研究に参加し、「WT1樹状細胞ワクチン」の作製に協力しています。当臨床研究では、治療奏効率70.0%、病勢制御率100%と、切除不能膵癌の治療結果として、極めて高い成果が出ています。
医療DXによる一人ひとりへのソリューション提供
この先さらに高度な医療サービスを提供する土台となるのは、膨大な量の検診データによる医療DXです。リゾートトラストとDeNAの合弁会社であるウェルコンパスが構築するPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)により、個人の健康や医療に関する情報をビッグデータとして活用することで、ライフスタイルや生活習慣が違うお一人おひとりのお客様の「パーソナル・ウェルビーイング」に貢献するソリューションを的確に提案できます。
医療はもちろんのこと、アドバンスト・メディカル・ケアが開発する医師監修のサプリメントや化粧品、フェムケアアイテムなどのプロダクトや、美容皮膚科形成外科ノアージュや東京ミッドタウンデンタルクリニックで行っている年齢にとらわれない若さをサポートする治療やメディカルエステも必要な方々に提供していきます。
さらに、海外から日本で検診や再生医療を受診したいというニーズも高まっていることから、アドバンスト・メディカル・ケアと三菱商事の合弁会社Noage Internationalを設立し、医療ツーリズム事業を強化しました。やがて海外にも日本の先進医療を展開していきたいと考えています。
認知症対策日本一のシニアライフ事業へ
そして、リゾートトラストやハイメディックの会員様にアンケートを取った結果、ヘルスケア分野でもっともニーズが高かったのが「認知症対策」でした。私たちのシニアライフ事業は認知症予防・ケアにおいて日本一となるべく取り組んでおり、先日は一般社団法人脳の健康を守る総合研究所との共催で、全国のシニアレジデンスでの事例研究発表会を開催しました。回復が非常に困難な嚥下機能改善への取り組みなど、認知症ケアの実例をもとにした発表を医師がレビューし、個別ケースを事業全体の知見へとアップデートしています。
医療×介護が一体となっているからこそできる取り組みで、リゾートトラストグループ共通のブランド・アイデンティティである「ご一緒します、いい人生」の締めくくりを豊かに過ごすための体制を盤石にしていきます。
毎日の経験が価値の高い知見を生み出す
冒頭で話した通り、長い社会人生活ではいろいろなことが起こります。試練に直面することもありますが、皆さんが入社したリゾートトラストのメディカル本部各社は社会的意義が非常に高く、企業の健康を支えるビジネスモデルも強固であることを認識してください。いい時も悪い時も、皆さんそれぞれの毎日の経験が先進的で価値の高い知見を生み出すことを忘れず、精一杯働き、活躍することを期待しています。