コロナ禍のクリニック休診から考える、医療施設経営の危機管理
今回は、コロナ禍におけるクリニック休診を例に、医療施設経営の危機管理についてお話しします。
2025年の今、あの激動のパンデミックを振り返ると、私たちが下した決断の重みを改めて実感します。コロナ禍によって社会が大きく揺らぐ中、クリニックの一時休診を決断することは、経営者として非常に苦しいものでした。しかし、私はその決断に確かな根拠と勝算を持って臨んでいました。
休診の決断
当時、世間には様々な情報が飛び交い、職員の心理的不安も高まっていました。私自身、クリにニックを閉めることに強い抵抗がありましたが、単なる休診ではなく、将来を見据えた「戦略的な休業」を選択する決断を下しました。
休診を決めた理由は主に3つあります。
1. スタッフの安全確保
2. 医療物資の不足への対応
3. お客様の減少
しかしこの決断には、単なる「休み」にさせてしまうのではなく、「必ず取り返す」という強い決意が根底にありました。
経営戦略と財務影響
結果的に、休診期間は2か月におよびました。月に約9億円もの赤字が発生し、経営者として非常に厳しい状況でしたが、事前に業績回復計画は用意していました。健康診断は年に1回の受診が義務づけられています。時期が多少ずれたとしてもその年のうちに受診していただければ、年間トータルでリカバリーできると見込んでいました。
・年間の受診者数を減らさない
・稼働日数を調整し、後半に受診者数増加となるよう運営する
・役員給与の大幅カット
ここで重要なのは、「役員給与」と「職員給与」の扱い方です。役員給与は大幅に削減し、職員給与はきちんと確保しました。具体的には、法定基準である60%を上回る70%以上を支給しました。これは経営判断を超え、職員の生活を守るために不可欠な措置でした。
一方で役員給与については、「まず痛みはトップから」という理念に基づいて対応しました。私自身も含め役員全員が大幅な減額を受け入れました。生活面での負担は大きくなりましたが、この判断こそが組織全体として正しい方向性だったと信じています。
また、約6億円の国の無利子融資や各種助成金も利用し、人件費補填にも努めました。不透明な状況下で、従業員の安全と業績の両立を図るべく、さまざまなプレッシャーの中で、この決断を下しました。
回復への道のり
休診後の回復は容易ではありませんでした。業績の回復はもとより、休診中の予約の振替調整も難航しました。しかし、こうした困難を乗り越えることで、私たちは大きく成長しました。給与水準も順調に回復し、むしろ以前より向上しました。結果として、年間の営業利益はほとんど変わらず、関係先からの信頼も得ることができました。
・危機に直面しても、長期的視点で勝算を持つこと
・職員との信頼関係の重要性
・柔軟な経営戦略の必要性
私たちは単なる医療サービス提供者ではありません。お客様のパーソナル・ウェルビーイングに貢献し、それぞれの人生に寄り添い、共に成長する存在です。この経営危機を乗り越えたことで、私たちは一段と強くなりました。これからも新たな挑戦が続きますが、どんな困難に直面しても、勝算のある計画性と高い実行力を持ち、何よりも決してあきらめない姿勢を貫いていきます。