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研究発表

研究発表


腟マイクロバイオームから考える女性のヘルスケア

― 女性の健康に対するプロバイオティクスの役割と展望 ―

第40回日本女性医学学会学術集会で発表

2025年11月1日・2日に開催された第40回日本女性医学学会学術集会において、吉形医師が「腟マイクロバイオームから考える女性のヘルスケア ― 女性の健康に対するプロバイオティクスの役割と展望 ―」と題して発表を行いました。
なお本セミナーは株式会社アドバンスト・メディカル・ケアのスポンサードセミナーとして実施されました。
当日は立ち見が出るほどの盛況で、腟マイクロバイオームへの関心の高まりがうかがえました。

女性ホルモン(エストロゲン)と腟マイクロバイオームの関係

腟マイクロバイオームの構成は、宿主(人体)の状態に影響されます。内的因子(人種、年齢、ライフスタイル、食事、腸内細菌叢)や、外的因子(ストレス、経腟感染、抗生物質、プロバイオティクス、ホルモン補充療法〔HRT〕や経口避妊薬の使用など)によっても変動します。

a)腟の自浄作用はエストロゲンと腟マイクロバイオームで保たれる

●エストロゲンの主な働き

  • 腟粘膜上皮でのグリコーゲン産生を促し、乳酸産生の基盤を整えることで腟内のpH(酸性)を維持する。
  • 腟粘膜の発育・代謝活性を高め、コラーゲン増生や水分保持を通じて腟粘膜を保護する。

●腟マイクロバイオーム(主にラクトバチルス属)の主な働き

  • 乳酸の産生源として腟内を酸性に保つ。
  • 細菌細胞膜の破壊や宿主免疫の刺激を通じ、抗菌的に作用する。

●理想的な腟マイクロバイオーム
ラクトバチルス属が豊富で、菌種がクラスター(集合)を形成した状態が望ましいとされ、分子学的研究ではCommunity State Types(CST)として主に5つに分類されます。

  • CST I:Lactobacillus crispatus(クリスパタス)優位
  • CST II:L. gasseri(ガセリ)優位
  • CST III:L. iners(イナス)優位
  • CST V:L. jensenii(ジェンセニ)優位
  • CST IV:ラクトバチルス(乳酸菌)が少ないタイプ。細菌性腟炎関連菌が多く、多様性が高い。

●悪影響を及ぼし得る外的因子

  • 性交、避妊具の使用、喫煙、ストレス、抗生物質、過度な洗浄 など

b) ライフステージと腟マイクロバイオームの変化

思春期/性成熟期/周閉経期/閉経後といったライフステージにより、腟マイクロバイオームは変化します。
性成熟期から周閉経期まではpHは酸性でラクトバチルス優位の状態が保たれやすい一方、周閉経期〜閉経にかけてpHは中性方向へ移行し、ラクトバチルスが減少、病原性を持つ菌の増加や多様性の上昇がみられやすくなります。閉経後は単一優位だったコミュニティは、より多様な構成へと変化します。

腟と腸内細菌叢のクロストークへの探究

自験例の検討から、複数の腟と腸のマイクロバイオームが相互に関連している(クロストーク)が認められます。腟マイクロバイオームは未閉経と閉経後で門レベルの構成に差異がみられ、一部のラクトバチルス同士は腟内で競合関係を示していました。さらに、未閉経群では尿中エクオール濃度とラクトバチルスとの正相関が観察されるなど、興味深い所見が得られています。

参考:R. Yoshikata, et al., Journal of Women’s Health, 2022

主なラクトバチルスの特徴と婦人科疾患リスクとの関連

代表的なラクトバチルスと主な特徴

  1. L. crispatus(クリスパタス):健康な女性の腟内で最も多くみられる。
  2. L. gasseri(ガセリ):日本人女性の腸にも多い菌種。
  3. L. iners(イナス):健康な腟にも存在するが、病的フローラにも共存しやすい。
  4. L. reuteri(ロイテリ):抗菌物質ロイテリンを産生し、悪玉菌の抑制に寄与。
  5. L. rhamnosus(ラムノサス):経口投与でも腟内環境へ影響を及ぼし得る。
  6. L. plantarum(プランタルム):腸・口腔・腟など広範囲に存在し、消化器からメンタルヘルスまで広く関与が示唆。

●性感染症等との関連
乳酸産生の強いクラスター(概ね CST I > CST II > CST V > CST III)ほど、HIV、HSV(単純ヘルペス)、HPV、淋菌、クラミジア、トリコモナス等の感染・獲得リスクが相対的に低い傾向が報告されています。対照的に、腟内細菌の多様性が高い状態(CST IVなど)ではリスク上昇が示されています。

●カンジダ腟炎
ラクトバチルスが産生する代謝産物(ポストバイオティクス)は、カンジタ菌の定着を抑制し、腟内環境の維持に寄与します。ラクトバチルスが減少し多様性が上がると、カンジダ腟炎になりやすい環境になり得ることが示されています。

●HPV感染
ラクトバチルス優位な状態はHPV感染の抑制やHPVクリアランスの促進に寄与し得る一方、多様性が高い状態ではHPV持続感染のリスク上昇が報告されています。多様性の高さは子宮頸がんを含む婦人科がんのリスクと関連する可能性も示されています。

経腟プロバイオティクスの活用

これらの背景により、est’re(株式会社アドバンスト・メディカル・ケア)のラクトバチルス含有素材を用いた経腟プロバイオティクスを含むフェムゾーンケアによるGSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)症状の改善効果および、腟マイクロバイオームの変化に関する研究を実施しました。

本研究ではフェムゾーンケア4週間の介入で、GSM症状改善ならびに腟内病原菌の減少をはじめとする腟マイクロバイオームの改善が認められました。

健康成分ラボ:腟・腸内細菌叢のクロストークについての探求

今後の展望として、プロバイオティクスの活用は、腟炎・性感染症・膀胱炎などの予防や補助療法としてまた、PMS/更年期症状の緩和、妊よう性向上、早産予防、産後ケア、美容スキンケアなど幅広く女性のヘルスケアへの貢献が期待されます。そのためには、さらなる疾患別、年齢層別の臨床研究が望まれ、腟や腸内細菌叢遺伝子情報にもとづいた、パーソナライズ・プロバイオティクスの開発が実現することで、新しい予防医療・治療戦略となることでしょう。

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