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研究発表

研究発表


第15回抗加齢ウィメンズヘルス研究会において、女性のエイジングとマイクロバイオームの変化 -腟内・腸内細菌叢のクロストークから見た女性ヘルスケアの展望-について発表されました。

女性のエイジングとマイクロバイオームの変化

2022年11月20日(日)お茶の水ソラシティカンファレンスセンターで「第15回抗加齢ウィメンズヘルス研究会」が開催されました。腟マイクロバイオームに関するこれまでの知見に加え、自験例による、閉経前後の腟マイクロバイオームの差異、腟と腸のマイクロバイオームのクロストークについて吉形医師から発表されました。腟マイクロバイオームは、女性のライフステージごとで変化し、腸内環境が良いことは腟内環境の改善にもつながるといった相互作用が存在することについて興味深い内容でした。

マイクロバイオームとは

吉形玲美 第15回抗加齢ウィメンズヘルス研究会発表スライドより抜粋

マイクロバイオーム(Microbiome)の概念は、2001年にレダーバーグとマクレイが初めて提唱しました。それは、「共生的、象徴的、そして病原微生物は、文字通り私たちの身体空間を共有し、気づかぬうちに私たちの健康と病気の決定要因となっている」と述べています。ヒトマイクロバイオームは、栄養素の分解代謝、免疫系調整、空腹満腹シグナルを人体(宿主)に対して行っています。マイクロバイオームはライフステージで変化しています。胎内にいる胎児は無菌状態ですが、誕生と授乳によって母親から受け継ぎ、生後約1年でマイクロバイオームは成人とほぼ同じ状態になります。その後も体に取り入れた栄養分、生活習慣によって個人のマイクロバイオームの特徴が決まります。

代表的なヒトマイクロバイオームは図に示す通り。今回は女性泌尿器・腟細菌叢に着目して解説します。女性泌尿器・腟内に棲むラクトバチルス属は、病原菌・性感染症のリスクを下げるほか、早産、婦人科がんのリスクを下げることが知られています。

女性のライフサイクルと腟マイクロバイオーム

吉形玲美 第15回抗加齢ウィメンズヘルス研究会発表スライドより抜粋

腟マイクロバイオームの構成は人体(宿主)の状態に影響されます。また、内的影響(人種、年齢、ライフスタイル、ダイエット、腸内細菌叢)や外的影響(ストレス、経腟感染、抗生物質、プロバイオティクス、HRTやピルの使用など)に左右されることが知られています。





a)腟の自浄作用はエストロゲンと、腟マイクロバイオームによって保たれている。
エストロゲンの働き
・腟粘膜上皮細胞でのグリコーゲン産生により、乳酸産生を促し腟内の酸度を保つ
・腟粘膜の発育・代謝活性、コーラゲン増生・水分保持作用により腟粘膜を守る

腟マイクロバイオームの働き
・乳酸の産生源
・細菌細胞膜の破壊と宿主免疫を刺激し、抗菌剤のような役割をする


理想的な腟マイクロバイオームはラクトバチルス属が豊富な環境で菌種のクラスター状態(集合体)により、分子研究では主に5つのコミュニティー(Community-state type ; CST)に分類されています。


5つのコミュニティー
・ラクトバチルス クリスパタス ( crispatus ) : CSTⅠ
・ラクトバチルス ガセリ ( gasseri ) : CSTⅡ
・ラクトバチルス イナー ( iners ) : CSTⅢ
・ラクトバチルス ジェンセニ ( jensenii ) : CSTⅤ
・ラクトバチルス(乳酸菌)が少ないタイプ : CSTⅣ (サブタイプA, B)
(細菌性腟炎関連生物が多い:多様性グループ)

悪影響を及ぼす外的因子
・性交
・避妊具
・喫煙
・ストレス
・抗生物質
・過剰洗浄 など


b)ライフステージと腟マイクロバイオームの変化
女性の思春期、性成熟期、周閉経期、閉経後と分類した場合、それぞれのステージにより、腟マイクロバイオームは変化を認めます。性成熟期~閉経前まではPH酸性、ラクトバチルス属で満たされた状態から、周閉経期~閉経となるにつれ、PH酸性から中性となり、ラクトバチルス属が減っていきます。ラクトバチルス属以外の病原菌が増え、単一コミュニティーだった腟マイクロバイオームは多様性へと変化していきます。

c)月経周期による腟マイクロバイオームの変化
女性ホルモンは月経周期に合わせて分泌量が変化します。月経期は女性ホルモン量が下がることにより、ラクトバチルス属が急減、腟内PHが上昇し、腟マイクロバイオームは多様性へ変化し、病原菌が増殖しやすい環境になります。月経期は閉経期に近い環境になります。

腟マイクロバイオームと疾患リスク

赤で囲った疾患が、腟内環境が影響していることがわかっています。性感染症、婦人科がんの発生と腟マイクロバイオームの関連レビューが多数報告されています。
昨今、着目されている閉経後の性器、尿路、性交関連症状の総称である「GSM」のリスクについても、腟マイクロバイオームが関連しています。



月経期、閉経期ともにGSMのリスク
GSM(genitourinary syndrome of menopause)は、日本語で「閉経関連尿路生殖器症候群」と訳され、性器症状、性交関連症状、尿路症状を合わせた概念のこと。2014年北米閉経学会で取り上げられた新しい概念です。腟と外陰部の委縮、それに伴う違和感や性機能障害、下腹部尿路機能に悪影響を及ぼす状態の総称で中高年女性の半数以上が有症状といわれています。
月経期、閉経期はともに腟内自浄作用が低下し、GSMリスクが増加します。閉経後は、腟粘膜が薄くなり、乾燥などによりGSMリスクのさらなる増加が考えられます。

腟・腸内細菌叢のクロストークについての探求

ヒトの各臓器の主な微生物は腸内細菌叢を中心に相互作用を有し、各疾患と関連しています。中でも腟と腸の細菌叢の関連は密接です。132人の妊婦を対象としたコホート研究では、腟・腸間で同じ細菌種は38%、種の68%は同じ遺伝型を示しています。人体(宿主)にとって腟内と腸内のクロストークは、代謝の恒常性、生理機能、免疫応答(局所・全身など)を行っていると考えられています。
概念参照:JE Martinez, et al. Nutrients. 2021 REVIEW、E Amabebe, et al. 2020 frontiers in Immunology. REVIEW


【自験例・横断研究結果】腟・腸内細菌叢のクロストークについての探求へ続きます。

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